クリス:菊人形と私
なぁボブよ、俺が最初に菊人形を見たのは、初めてJaponに来た次の年だった。俺がキャッシングというあの悪魔に追われて日本海の近くのある街に裸足で命からがらたどり着き、公民館の屋根裏部屋で寝泊りしていたあの頃のことさ。
その街の中心の商店街は包丁やら鋏やらシャトル型の鼻毛抜きやら、研ぎ物ばかりが並んでいる不思議な通りだった。
そんな商店街のはずれの一角に、白い顎鬚を蓄えた小粋な老人マスターが経営する珈琲屋があったのさ。
俺はサイフォンがポクリポクリと泡を立てているのを漫然と眺めていると、ふとその向こうの染みだらけの壁に一枚のポスターが貼られているのが目に付いた。
それが大菊人形大会のポスターだった。
そのポスターは見事だった。眉のきりっとしたサムライがニコリともせず全身に菊の花を纏っている。その一点を見つめて微動だにしない立ち姿はJaponの精神そのものだった。俺はそれを引きちぎり、すぐに会場に向かったのさ。
大きな河川敷の会場では、色とりどりの菊の衣装の中、菊人形はお澄ましな、そして思わせぶりな表情で立っていた。大きかったよ!菊人形は本当に大きく見えたんだぜ!ボブ!
俺はそれ以来、菊人形ってやつを全国津々浦々、公園でも、駅前でも、そしてゲームセンターでも、何処でも気軽に見ることの出来る存在にしたくて、街頭で募金活動にいそしんでいるのさ。もちろん自分も菊人形姿になってね。
だからボブ、君もぜひ君だけの菊人形に挑戦してくれ。

